僕が由美に「ご両親に合わせて欲しい」と相談した翌日の昼過ぎのことでした。由美から突然こんなLINEが入りました。
「今晩、夜8時に実家に来て欲しい。お父さんが話があるって」
その日は月曜日。僕はご両親とのあいさつは週末とかに食事やお茶をしながら、ゆっくり話すことになるのかなと考えていたので「平日の夜に来て欲しい」という由美からの連絡に少しとまどいました。
僕は仕事を午後6時に終わると、すぐに家に帰ってスーツに着替え、手土産に高級なお菓子を買い、約束された午後8時前に由美の実家に到着しました。
そして、由美の家のインターフォンを押しました。
（緊張するな・・・）
10秒ほど待つと、由美のお父さんが出ました。そして、インターフォン越しにこう僕に言いました。
「お前か？入れ」
初対面の由美のお父さんから「お前」と呼ばれ、口調が想像以上にきつかったので、かなり動揺しました。しかし、冷静さを取り戻して玄関の扉を開けました。
すると、そこには50歳くらいの男性が腕を組んで立っていました。もちろん、この方が由美のお父さんです。ものすごく怖い顔をしていました。由美のお父さんは僕をにらみつけると突然怒鳴りました。
「うちはな、公務員の家系なんだよ。お前は中卒らしいな？」
僕は最初、由美のお父さんが何を言っているのか意味が理解できませんでした。
（え？どういうこと？公務員の家系？中卒？）
由美のお父さんがこう続けました。
「今は高卒が当たり前の時代だろうが！なんでお前は中卒なんだ？2度と由美に近づくな。交際は許さん。帰れ！」
僕は5秒ほど言葉を失い、固まりました。僕は1度、ペコっと頭を下げて外に出ました。手に持った手土産のお菓子を渡すことも、家に上げてもらうこともできませんでした。
玄関の扉を閉める時、由美のお父さんが最後にこう叫びました。
「2度と来るな！」
僕は玄関の扉を閉めて車に乗り込むと、あまりのくやしさに涙がこぼれました。
（中卒が悪いのか？仕事はちゃんとしてるのに。中卒がそんなに悪いのか？）
その時、由美からLINEのメッセージが入りました。
どうしてもお父さんを説得できない。うちはお父さんの意見が『絶対』なの。交際を続けることすら厳しい。別れて欲しい。
僕はそのLINEを見て頭が真っ白になりました。
（こんな・・・こんなことってあるのか？）
高校を出ていないだけで、ここまで差別のようなあつかいを受けないといけないのでしょうか。
僕は由美に「分かった。今までありがとう」とだけ返信し、スマホをポケットにしまいました。